ハチにまつわる自然由来の食品や商品を紹介する、ハチめぐ編集部です。
スペイン、バレンシアにあるアラーニャ洞窟には、崖に登って蜂の巣からはちみつ(蜂蜜)を取ろうとする女性の壁画があります。紀元前約6,000年、今から約8,000年前に描かれたものです。
はちみつは古代から保存食として重宝されてきました。その長期保存性の理由は、はちみつの「水分含有量」にあります。この記事でははちみつがなぜ腐りにくいのか、とはいえ一般的な賞味期限はどのくらいか、適切な保存方法は何かについて詳しく解説します。
はちみつが腐りにくい理由は?

・水分量が少ないから(22%以下)
・弱酸性だから(pH3.5~4.5)
はちみつが腐りにくい食材である大きな理由は、水分含有量が少ないからです。
一般的に、水分が多いと細菌が繁殖しやすいです。食材は、水分含有量が多いほど腐りやすいことになります。
日本養蜂協会(旧:社団法人日本養蜂はちみつ協会)が制定した「国産天然はちみつ規格指導要領」によれば、はちみつの水分量は22%以下と定められています。
第4条 国産天然はちみつの規格は、次のとおりとする。
はちみつの性状はちみつは淡黄色ないし、暗褐色のシロップ状の液で、特有の香味があり早晩結晶を伴うものである。
水分(於:温度20℃)22%以下
果糖及びぶどう糖含有量(両者の合計)60g/100g以上
しょ糖 5g/100g以下
灰分(電気伝導度)0.8ms/cm以下
H.M.F.5.9mg/100g以下
遊離酸度 100gにつき1Nアルカリ5ml以下
でん粉デキストリン 陰性反応
ジアスターゼ活性値 10以上
抗生物質 陰性反応
国産天然はちみつ規格指導要領
ではハチミツは、メープルシロップやガムシロップなど他の甘味料と比べるとどのくらい水分が少ないのでしょうか。比較すると次のようになります。
種類 | 含まれている水分量 |
---|---|
はちみつ | 約17~22% |
メープルシロップ | 約32~35% |
ガムシロップ | 約45~50% |
黒みつ | 約25~30% |
水あめ | 約17~22% |
似た甘味料と比べると、はちみつがもっとも水分量が少ないことがわかります。はちみつと同じく水分が含まれていない水あめも、腐りにくい食材として有名ですね。
ちなみに水分量が20%前後の食材には、ドライフルーツ(約15~25%)、干し芋(約20~30%)があります。はちみつは意外と「乾燥」している食材なのです。
また、はちみつはpH(ピーエイチ)が3.5〜4.5の弱酸性であることも、細菌やカビが繁殖しにくい理由になっています。
はちみつに賞味期限はある?

・2~3年ほど
いくら腐りにくいからとはいえ、はちみつに賞味期限は存在します。日本で販売されているはちみつの賞味期限は、通常2〜3年ほどです。
ただ未開封かつ冷暗所で適切に保存されていれば、賞味期限を過ぎても腐敗することはほとんどありません。ただし、時間の経過とともに風味や香りが薄れたり、色が濃くなったりすることがあります。
はちみつの賞味期限が切れていても、見た目や香りに異常がなければ、調理などに活用できる可能性がありますが、使用前にスプーンで少量を取って状態を確認すると安心ですね。
(番外編)はちみつは、ミイラの保存に使われていた!?

古代エジプトではミイラの腐敗を防ぐ手段として、なんとハチミツが活用されていました。
はちみつは粘性が高いので体の傷口や空洞を覆いやすく、弱酸性なので微生物やカビを寄せ付けず、水分が少ないためミイラの水分を吸収して保存効果を高めてくれたのです。まさに天然の防腐剤として使われていました。
現代では「はちみつ漬け」という食材の保存方法もあります。ベリーや梅、レモンなどをハチミツにつけることで長期保存を実現できます。
このように古代から現代まで、長期保存の手段として選ばれるほど、はちみつは保存性が高い(腐りにくい)ということになります。
天然はちみつ(生はちみつ)の賞味期限は?
未開封:2~3年
開封後:1年ほど
天然はちみつとは「ミツバチの巣箱より採蜜し、濾過しただけの人工を加えないもの(引用:国産天然はちみつ規格指導要領)」のことです。加熱処理や濾過を行っていないため、酵素や栄養成分が豊富に含まれていることが特徴です。
このタイプのはちみつも高い糖度と低水分活性により、未開封であれば2〜3年は品質が保たれます。保存状態が良好であれば、それ以上の保存も可能です。
開封後の生はちみつは、空気中の湿気を吸いやすいため、蓋をしっかり閉めて冷暗所に保存することが重要です。こうした管理を徹底すれば、開封後も1年ほどは品質を維持できるはずです。
加糖はちみつの賞味期限は?
未開封:半年~1年ほど
加糖はちみつはシロップや砂糖などの甘味料が加えられたはちみつのことです。
添加物によって水分量が増えるため、微生物が繁殖しやすい環境が生まれやすくなります。これにより保存性は大きく低下し、品質劣化のスピードも早くなります。そのため、未開封であっても賞味期限は半年から1年程度が目安とされています。
開封後はさらに劣化が早まるため、冷蔵庫での保存が推奨されます。加糖製品は表示ラベルを確認し、使用期限内に使い切るようにしましょう。
はちみつが腐る理由は?賞味期限に影響する5つの要素

・開封
・高温
・直射日光
・高湿
・唾液
はちみつの賞味期限が早まる、腐りやすくなる原因は主に5つあります。
腐りやすくなる原因1:開封
はちみつの賞味期限に、最も大きく影響を与えるのが「開封」です。
はちみつを開封するということは、空気中に含まれる湿気やホコリ、雑菌などにはちみつをさらすということです。当然それらが容器内に入り込むことで、風味や色、粘度などが劣化するリスクが高まります。
開封後は密閉を徹底し、使用時は乾いた清潔なスプーンを使用することが基本です。未開封であっても冷暗所に保管することで、品質を長く保つことができます。
腐りやすくなる原因2:高温
一方で、未開封であっても保存環境が不適切であれば、品質の劣化は避けられません。
はちみつは高温にさらされると酵素が失活し、風味が飛んでしまう場合があります。最も望ましい保存温度は15〜25℃の冷暗所です。この範囲で保存することで、はちみつの成分や香りを損なうことなく、長期間安定した品質を保つことができます。
ちなみに、低温すぎても糖分が結晶化し、はちみつが固まってしまうので、保存に適していません。こちらは品質が劣化しているわけではありませんが、単純にはちみつが使いにくくなってしまいます。

品質に問題が出るわけではないので、「はちみつを固めて食べたい」という方には冷蔵庫での保存は逆におすすめです。


腐りやすくなる原因3:直射日光
はちみつは急激な温度変化も品質に影響を及ぼすため、直射日光の当たらない一定の温度が保たれる場所を選ぶと良いです。
また、紫外線ははちみつ中の酵素や栄養成分を分解する原因となり、風味の低下や色の変化を引き起こします。特に長時間光にさらされると、香りが飛びやすくなるほか、はちみつ本来のなめらかさや透明感が失われる可能性もあります。
このため、保存時には遮光性の高い容器を使用するか、日の当たらない戸棚や箱の中などでの保管がおすすめです。遮光ボトルでなくても、紙袋などで覆うことで光の影響を軽減することもできます。
腐りやすくなる原因4:高湿
開封後の賞味期限をさらに早める要因としては、高湿環境があります。
はちみつは吸湿性が高く、空気中の湿気を吸収しやすい性質を持っています。そのため高湿の環境ではちみつを空気に触れさせると、はちみつの水分量が徐々に上昇し、微生物が繁殖しやすくなるのです。
湿度からはちみつを守るには、密閉性の高い容器に入れ、ふたを確実に閉めておくことが基本です。また、キッチン周辺に置いている場合は、水気の多い場所の近くは避けるようにしましょう。
湿気を避けた適切な保存により、はちみつの風味と品質を長く保つことができます。
腐りやすくなる原因5:唾液
最後に唾液の混入は、はちみつの品質にかなりの悪影響を及ぼします。
唾液にはアミラーゼなどの消化酵素や微生物が含まれており、これらがはちみつに入ると発酵や風味の変化を引き起こす原因となります。特に、一度使ったスプーンを容器に戻したり、容器の口に直接口をつける行為は、はちみつが腐る最たる原因でもあるので絶対にやめましょう。
はちみつを衛生的に保つためには、使用のたびに乾いた清潔なスプーンを使用し、容器の口に触れさせないことが重要です。家庭内での衛生意識を徹底することで、はちみつの保存性と風味をより長く保つことができます。
まとめ
この記事の要点
・はちみつは水分が少なく酸性だから腐りにくい
・未開封なら2〜3年持つが、保存方法で劣化が早まる
・加糖や開封後のはちみつは腐りやすく要注意
はちみつは、ミツバチの努力と自然の恵みによって生まれた貴重な食品です。
高い糖度と低い水分含有量により、非常に腐りにくく保存性に優れていますが、品質を保つには適切な保存方法が不可欠です。冷暗所での保管、密閉容器の使用、清潔な取り扱いなど、基本的なポイントを守るだけで、はちみつの美味しさを長く維持することができます。
日々のちょっとした配慮が、はちみつの価値をより引き立ててくれます。自然の恵みを無駄にせず、感謝を込めて活用していきましょう。